テクニクス SP-10mk2 オーバーホール完了

 20年程度通電していない状態で、最終使用時には定速回転していなかったとの事で、オーバーホールのご依頼を頂きました。

オーバーホール前の動作確認

 20年間通電されていませんので、通電状態を確認した後、本体と電源ユニットを切り離した状態で電源を入れ、電源回路の不具合の有無を確認します。
 モーター駆動用電源に若干のリップルが有り、電圧も0.5V程度ドロップしています。
 定速回転していなかったとの事ですので、本機のウイークポイントでも有るFGコイルの状況を確認しましたが、断線やショートは確認できませんでした。
 本体の動作確認には問題は有りませんので、電源ユニットと本体と組み合わせて動作確認を行います。
 問題点として、下記5点を確認しました。
 ・電源ユニットのパイロットランプ点灯しない
 ・時々定速回転しなくなる
 ・サンプリングパルスのタイミングが大幅にずれている(温度により変化しています)
   33rpm時 7.8ms付近(規格6.3ms±0.2ms)
   45rpm時 6.7ms付近(規格4.7ms±1.3ms)
   78rpm時 3.4ms付近(規格2.7ms±0.1ms)
 ・ワウフラッタ 0.096%(規格0.025%W.R.M.S)
 ・運転時異音発生

 サンプリングパルスタイミングは調整範囲内ですが、何故これだけのずれが発生しているのかが問題です。温度特性によって変化する内容ですので、安易に調整だけで終わらせると、後々痛いしっぺ返しを受ける事に繋がります。
 異音はプラッタ裏側に貼り付けてある防振特性向上用のゴムが一部的に剥がれ、本体と接触する事で発生していました。またワウフラッタ悪化の原因の一つにもなっています。SP-10mk2では、よく見られる不具合です。

オーバーホール作業内容

・オーバーホール
  電解コンデンサ全数交換
  フィルムコンデンサ全数交換(対象部品:松下電器製 ECQMタイプ)
  調整用半固定抵抗器全数交換
  コントロール回路基板FET全数交換
  スイッチ全数交換(電源スイッチ除く)
  ヒューズ全数交換
  各回路基板はんだ付け修正(全箇所吸い取り後、再はんだ付け)
  各回路基板クリーニング
  電子部品リード線のチューブ取り外し、リード線クリーニング
  機構部クリーニング、注油、調整
  12時間×2日間エージング後動作確認
・電源部パイロットランプ交換(LEDに変更)
・プラッタ裏の防振ゴム一部剥がれ修正

オーバーホール作業詳細

 今回のオーバーホール実施にて、作業前の不具合が全て解消されました。特にワウフラッタは劇的な改善が出来ています。
・ワウフラッタ 作業前0.096% 作業後0.018%
 作業前はサンプリングパルス位置がふらふらと安定しませんでしたが、しっかりと安定するようになりました。

オーバーホール後のサンプリングパルスの状態

 映像をキャプチャすればよいのですが、iPhoneでPC画面を撮影していますので、映像が傾いています。ご了承下さい。
 青色が基準信号、赤色がサンプリングパルス、緑色がFG信号です。
 約1分間、撮影しています。
 オーバーホール前はサンプリングパルス位置が温度によって4スケール以上変動し、2スケール程度フラフラしていました。
 この事が原因で、定速回転していなかったと考えられます。
 部品交換により電源電圧が安定し、回路内のノイズが激減して動作が安定した事により、温度による変動は殆ど無く、パルス位置のふらつきも激減しています。

 電子部品のリード線クリーニングとは?と思われる方もいらっしゃると思います。
 この時代の回路基板のはんだ付けは、はんだ槽を用いて行われています。フラックスを使用するのですが、リード線にチューブを被せて部品実装、はんだ付けを行った場合、チューブとリード線の間にフラックスが残り、そのフラックスが時間経過と共にリード線を侵食します。時にはリード線が切断寸前まで腐食している場合も有ります。
 今回は腐食まで至らず、リード線に被せてあるチューブを取り外し、リード線に残っているフラックスを除去しています。
 取り外したチューブです。変色具合にご注目下さい。

リード線から取り外したチューブ

 新品時には透明チューブだったと思います。これだけ変色する程、フラックスが残っています。
 回路基板も同等で、残留フラックスがたっぷりと付着しています。このまま放置していると空気中の水分と反応し、回路基板自体に損傷を与えるたり動作不安定になる可能性が有りますので、回路基板洗浄を実施しています。

 回路基板上のはんだを全て吸い取り、部品のリード線で部品を保持できる様に回路基板裏側でリード線を折り曲げて再度はんだ付けを行っています。
 はんだだけで部品を保持する事も大きな問題では有りませんが、はんだに不要な負荷を掛けさせたく無いとの考えから、この作業を実施しています。
 下の回路基板は大きいコネクタが集まっています。この様なコネクタのリード線を折り曲げると、コネクタ自体に負荷が掛かりますので、折り曲げずにはんだ付けを行っています。
 この基板の不安要素は、コネクタを固定するネジが取り付けられていない事です。
 コストカットの影響でしょうか?

はんだを全て吸い取ったConnectional Circuit基板

 今回のオーバーホールにて交換した部品です。

Technics SP-10mk2 オーバーホール交換部品

考察

 生産後、約半世紀経過していますので、新品と同等近くまで性能や信頼性が回復すると考えるのは無理が有ると思いますが、今回のオーバーホール実施にて、今後ご不安無くご使用いただけると思います。
 この製品はメーカーオリジナルICを用いず、ディスクリート部品で構成されていますので、今後の修理も部品が入手できる限り可能です。
 現在生産されている電子機器には、多量のメーカーオリジナルICが使用されていて、修理も回路基板Assy交換です。
 回路基板やメーカーオリジナル部品の供給をメーカーが終了した時点で、その製品は終了すると考えています。
 旧式の製品が長く使用できるのは、過剰品質とも言える設計思想と汎用部品で構成されている事が根底に有ると考えています。