テクニクス SP-10mk3 オーバーホール及びカスタマイズ完了

以前から作業を行っていたテクニクス SP-10mk3のオーバーホール(以下OHと書きます)とカスタマイズが完了しました。
OH後の問題点として、ワウフラッターの規格外と運転時のプラッタの振動(ジッタ)を確認していました。
その原因がPG信号の不揃いである事まで突き留めていましたが、それ以外の問題点が何点か見つかり、その解消にかなりの時間が掛かってしまいました。

作業前の問題点

・運転時微振動発生
・ワウフラッター規格外(0.8%程度 カタログ規格値:0.015%)
・運転時ジッター発生
・コントローラー過熱
・GNDライン電位差 各回路基板間で最大0.8V発生
・ストロボ通常時のLED一部不点灯

運転時の微振動は、この機種だけではなくて他の機種(SP-10mk2やSP-15等)でも発生しています。
今回の個体はワウフラッターの値やジッターの発生、GNDの電位差の大きさ等、通常には見られない症状が発生していました。
OHだけでは症状は改善されないと悪い予感は有りましたが、残念ながら的中してしまいました。

OH作業内容

・電解コンデンサ全数交換(47個)
・フィルムコンデンサ全数交換(48個)
・高分子電解コンデンサ全数フィルムコンデンサに変更(5個)
・各押し釦スイッチ全数交換(12個)
・制御回路用ダイオードブリッジ変更(1A品→3A品)
・ダイオード2個交換
・ヒューズ全数交換(4個)
・ストロボ、ブレーキ電源供給用トランジスタ交換、取付位置変更
・ストロボLED全数交換
・電源・オペレーション回路基板抵抗器1個追加
・オペレーション回路基板抵抗器2個追加
・裏付け部品を全て部品面に移動・交換
・回路基板上のコネクタ全数交換
・電源ライン配線材変更(#30→#24)
・ヒューズ回路基板上のラッピングポストを半田付け用端子に変更
・各回路基板半田付け全箇所吸い取り、再半田付け
・各回路基板クリーニング
・機構部クリーニング、注油
・電気調整・機械調整

OH後の問題点

・ワウフラッター規格外(0.09% 製品規格 0.015%)
・運転時の微振動発生(ジッター有り)

問題点解消作業内容(カスタマイズ)

・PGコイル巻き直し(一部ボビン修復)
・GNDライン強化・引き回し変更
・制御回路部と駆動回路部のGNDをアイソレート
・DDモーター取り付け調整
・本体とコントローラを繋ぐコネクタの半田付け修復
・抵抗器4本追加 1本定数変更
・コンデンサ2個定数変更
・電解コンデンサ2個をフィルムコンデンサに交換

PGコイルの巻き直しは、巻き数の最適値を導き出す為の時間がかなり必要でした。
作業前のコイルインダクタンスが10%程度バラついていましたので、その最大値と最小値で試したり巻き方を変えてみましたが上手くいかず、最大値の約8%増しの巻き数で最適値になりました。
PGコイルの様子です

PGコイルボビン修復作業前

PGコイルのバランスをとった後、各コイルからの信号レベルに差が大きく、モーターステーターの微調整を行って信号レベル差を±1%以内に収めました。

本体とコントローラを接合するコネクタです。
照明の関係で色が異なります。

GNDライン強化と引き回しの変更と同時に、制御回路部と駆動回路部のGNDをアイソレートして、制御回路内に駆動回路のノイズの混入を出来る限り減らしています。
GNDラインの強化と引き回し変更は、効果が大きい内容と殆ど変わり無い内容が有りますが、その作業の内容上、全ての作業をそのままにしています。

OH及びカスタマイズの結果

これだけのかなり大掛かりな作業によって、良い成果をもたらす結果となりました。
勿論、運転時の微振動は無くなっています。
・ワウフラッター 0.8%→0.008%前後(33rpm時)
・ジッター 1.6msec→26nsec前後
ここまでの性能が出ていれば、この製品の良さは取り戻していると考えます

モーター駆動波形とスイッチングタイミングです。
OH後カスタマイズ前

OHカスタマイズ後

全て33rpm時の波形です
カスタマイズ後で何れの相もノイズが減りスイッチングタイミングが完全ではありませんが殆ど同じになっています。
スイッチングタイミングは50:50が理想ですが、この機種は調整が出来ません。
また駆動信号の少し大きいパルスは、駆動用ICの内部で発生していますので、ICの性能か若干の性能低下が原因だと考えます。

各回転数でのモーター駆動波形です
OH後

カスタマイズ後

カスタマイズ後は各相のバランスが良くなっています。

通常、これだけの作業が必要になる事は経験上ありません。
この個体の保存状況や使用状況が好ましい状況では無かったのでしょう。

私物ですからここまでの作業を実施する事が出来ました。
100%では無いですが、この製品の癖(?)を知る事が出来ました。
今後の他のOHで不具合が出た時の引き出しが、大幅に増えたと思います。