Garrard Model401 オーバーホール

 Garrard Model401のオーバーホールが完了しました。
 珍しいトラブルで、半年程度お預かりしていました。
 長期間お待ち頂いたお客様に、感謝とお詫びを申し上げます。

作業前動作確認

 お客様のご指摘内容は、回転数が安定しない不具合が発生しているとの事でした。
 運転すると、モーター付近から金属が擦れ合う様な異音が発生しています。また、アイドラの滑りと取付角度の問題が確認できました。
 モーターの回転が異常に重く、少しガリを感じます。
 スピンドルも回転が重く、引っ掛かりを感じます。

オーバーホール作業内容

通常オーバーホール

モーターラバースリーブ交換
アイソレーショングロメット交換
ボルトラバー交換
ブレーキパッド交換
モーター分解清掃・注油
スピンドル分解清掃・注油・オイル漏れ対策
各機構部品分解清掃・注油・シリコンコーティング
12時間×2日間の運転後、動作確認

追加作業

アイドラ交換
モーター上部軸受け穴径修正
スピンドルスラストパッド交換
受電部取付ねじ交換(M3.5ねじ使用)
アイドラ取付角度調整
速度調整アームスプリング全数交換

オーバーホール作業詳細

モーターオーバーホール詳細

 本製品のモーターは、カバーが上下分割されていて、その中にステーターコイルとローターが組み込まれています。
 カバーに軸受けが組み込まれていますが、今回は上部の軸受けの穴径に問題が有りました。
 軸受けを交換した痕跡は有りませんので、修理時に上側のカバーが交換されていると思われます。
 通常であれば、軸と軸受けのクリアランスを確認・調整を行うのですが、今回の個体は交換作業を行っただけで、クリアランス調整は実施されていなかったのでしょう。
 下側と上側の軸受け内径がかなり異なっていて、下側はギリギリ交換対象から外れる程度ですが、上側はクリアランスが殆ど無い状態です。
 これが回転数が安定しない原因です。
 このまま使用を続けていたら、焼付きは避けられません。上側軸受けの内径を軸に合わせ、円滑に回転する様に研磨を行っています。
 Garrard 301・401共に、モーター軸の直径のばらつきが大きく、軸受交換時にはクリアランス調整は必須です。

 モーター組み立て時に上下の軸受けの位置を調整する必要が有ります。調整を行わないと、回転の立ち上がりや安定性、振動に悪影響を与えます。
 モーター単体で調整を行った後、モーターフレームに取り付けるのですが、この時に位置関係が悪くなる個体が有ります。
 それを無くする為に、モーターフレームに取り付けた後に、正常な位置関係になっている事を確認しています。
 その様子です。

Dsc 9489
モーターの上下軸受け位置関係を確認中

 モーターの振動を本体シャーシに伝えない工夫がされています。
 スプリングとゴムリングで、車のサスペンションの様な働きが有ります。
 今回の個体には、純正品とは異なる材料で、内外径も異なっています。
 左側が現在純正補修部品として供給されている部品、右側がこの個体に取り付けられていた部品です。

Dsc 9485
純正品とは異なるゴムスリーブ

 前回の修理を行った方のオリジナル品かも知れませんが、スリーブの内径や材料に不安が有って、正常な機能を果たしていない可能性が有りますので、純正補修部品と交換しています。

スピンドルオーバーホール詳細

 スピンドルを分解すると、下部に錆の様な付着物が確認できました。

Dsc 9358
スピンドル軸横視点
Dsc 9351
スピンドル下方視点

 この状態では、円滑な回転は望めませんので、研磨を行って問題を無くしています。

Dsc 9377
スピンドル横視点(研磨後)
Dsc 9368
スピンドル下方視点(研磨後)

 若干付着物が残っていますが、これ以上研磨すると寸法的な問題が発生します。この部分はオイルに浸かっていますので、問題はないと考えます。

スピンドル下部軸受けのスタイラスパッドの摩耗が進んでいましたので、交換しています。

Dsc 9362
摩耗が進んだスタイラスパッド

 Garrard 301・401共にスピンドル上部からオイル漏れが発生しますので、金属パテを使用してオイル漏れを無くしています。

その他の作業

 アイドラを取り付けるアームに問題が有り、アイドラとプラッタの水平がずれていました。
 この状態だとアイドラの摺動音が大きくなり、酷くなるとスキール音の様な音が出ます。
 この傾きの原因ですが、フレームの問題かと思っていましたが、簡易測定(スケールを当てて隙間を見る)では全く歪は確認できませんでした。
 アイドラの取付アームのシャフトが曲がっている可能性も有りますが、そこまで測定できる機材は持っていません。また、一度曲がった金属をもとに戻すと、強度がかなり下がってしまいますので、トランスミッションを取り付けるワッシャの枚数を変えて対応しています。
 通常は2枚のワッシャが組み込まれています。アイドラの水平を確認しながら、適所にワッシャを1枚加えています。

Dsc 0342
アイドラの傾き(調整前)
Dsc 1257
アイドラの傾き(調整後)
Dsc 1262
アイドラ傾きの調整用ワッシャ(1枚追加)
Dsc 9186
取り付けられていたアイドラ 上側の摩耗が激しい

 速度調整用アームのモーター連結部のバネが1本異常に伸びていました。なぜこうなったかは定かではありません。
 3本とも純正補修部品に交換しています。

Dsc 9103
速度調整用アームの延びたバネ
Dsc 9638
バネ交換後

 写真は失念しましたが、ナットが1個だけかなり錆びていて、外す時にネジ側が折れそうでしたので、破壊して取り外しています。
 このナット、インチ規格(ウィット)で、生産終了して10年程度経過しているようです。どこを探しても入手できませんでしたので、同寸法のM3.5の物にネジと同時に交換しています。

珍事

 敢えて「珍事」と書きました。今まで遭遇した事が無かった現象です。
 本体シャーシや操作パネルは、分解後、中性洗剤の泡で洗浄するのですが、操作パネルを洗浄した際にその事件(?)が発生しました。
 部分的に印刷が剥げて消えてしまいました。
 補修も考えましたが、化粧パネル表面の劣化が進んでいましたので、純正補修部品との交換をお客様に提案しましたが、ご承諾を得られませんでした。
 中古部品をかなりの期間をかけて探し出し、何とか1個見つけましたが、汚れが酷い状態でした。
 もちろんお客様のご了承はいただけません。
 何とか補修できないかとシルク印刷、パッド印刷、レタリング等を行っておられる工場に問い合わせましたが、化粧パネル表面の劣化により、印刷は不可能との回答が有りました。
 化粧パネルが操作パネルフレームから取り外しが出来れば、表面処理をやり直して、印刷は可能との事でした。
 化粧パネルと操作パネルフレームは、両面テープで貼り付けられています。両面テープの劣化が進んでいますので、少し熱を加えて慎重に作業を行えば、取り外しは可能です。
 今回の個体の操作パネルは、パネルフレームと化粧パネルが強固に貼り付いていました。熱を加えても、全く剝がれようともしません。
 その為に、修復作業を諦めざる得ない状況になりました。

 長期間お預かりして塗装が剥がれた状態でのお返しは非常に心苦しいのですが、純正補修部品の使用はご了承頂けず、中古部品は何時見つけ出す事が出来るのか、全く予想もつきません。
 修復は諦めて、現状でお返しできないか、お客様のご要望を問い合わせしたところ、誠にありがたい事にご了承を頂きました。

 塗装が剥げた操作パネルと、純正補修部品のパネルです。
 上側が純正補修部品、下側が今回お預かりした個体の操作パネルです。
 文字のフォントや大きさ、塗装色が違います。

Dsc 0264
純正補修部品とお預かりした個体の操作パネル

 オーバーホール交換部品

 今回のオーバーホールで交換した部品です。
 左下側に6個の部品が並んでいますが、これがモーターラバースリーブです。長さが異なります。また、その左側に1個ワッシャが有りますが、これはボルトラバーです。実際には4個取り付けますが、他の3個はバラバラに潰れた状態でしたので、ここには写っていません。
 余談ですが、このボルトラバー、完全に潰れて入荷する個体が少なくありません。
 このパーツは、本体とキャビネットの干渉を防ぐゴムワッシャです。潰れるまで取付ナットを締め込むと、この部品本来の役割が見込めなくなります。
 軽く締めるだけで良く、その為に純正の取付ナットはダブルナットになっています。

Dsc 1254

作業を終えて

 色々な現象が有りましたが、機能的には通常のオーバーホール完了の状態に戻す事が出来ました。
 お客様の所有物に傷を付けてしまいました。誠に申し訳なく、深く反省しています。長期間お預かりした上、現状での返却にご了承を頂いたお客様には、深く感謝しております。
 劣化が進んでいる印刷や塗装は、家庭用の中性洗剤の泡で剝がれてしまう場合が有る事を考えると、この様な事象が二度と発生させない為に、クリーニングは埃を飛ばす程度に抑えます。

 ただ、今回の個体には、少しばかり疑念を持っています…